月の光だけがあたりを照らし、静寂が全てを包みこんでいた。

 全く人の気配を感じないことに新一は小さくため息を吐いた。先ほどまでは沢山の人がいたというのに、容易く彼に騙されてしまったということだろう。
 目の前にある扉を睨みつけて最後にもう一息吐いてからゆっくりと扉を開いた。

「よぉ。名探偵。今日も1人で御苦労さん」

 手にした宝石を弄びながら怪盗がゆっくりと振り返った。背には月が綺麗に輝きを放っている。挑発するように歪められた口は相変わらず憎たらしい。

「ま、俺に辿りつけるのなんて名探偵ぐらいだから仕方ねぇよな」

  にやりと笑ってウィンクをした。目を半眼にして睨みつけてやると肩をすくめてみせた。ため息1つ零して怪盗に近付いた。
  隣に立つと微妙にこいつより背が低いことに気づかされる。シルクハットの所為ではないだろう。なんかむかつく。

「それより、早く返せよな」
「んーどうしよっかなー?」

 くるくると石を弄んでニヤニヤと笑う怪盗のシルクハットを飛ばしてやった。断じて背丈のことでむかついたからではない。どうせシルクハットを飛ばしたところでこの憎たらしい怪盗には大して効果はないだろう。実際空中を飛ぶシルクハットをキャッチしてまた被り直してやがるし。

「暴力探偵」
「うるせぇ。変態怪盗に言われたくねぇよ」

  互いの目から火花が飛び散ったと思った瞬間遠くの方からパトカーのサイレンの音が聞こえた。

「警部か?」
「だろうな」

  音は近づくことなく遠ざかっていった。

「またアレに騙されたのか。いい加減気付いてもよさそうなのに」
「あぁ、白馬も追ってたぞ?」
「あー…今日は名探偵がいたから勝手に対抗意識でも燃やしたんじゃねぇ?」
「どうだろうな」
「アレ?名探偵にはそんな気なし?」
「俺は一課専門だからな。どっかが誰かが家のポストに予告状なんて入れなかったら来てねぇよ」
「んじゃそのどっかの誰かに感謝だな」
「勝手に言ってろ。白馬は別に見方はいいのにな」
「ヤツは自分の力を過信しすぎて暴走するからな。大人しく家で俺と名探偵の華麗な対決でも眺めてればいいのに」
「ま。俺には関係ない話だけどな」
「ほんと、冷たいよなぁ…名探偵」
「うるせ」

  軽い言葉の応酬が楽しいと思えるのはどうかと思う。もし、コイツに楽しいなんて思っていることに気づかれたら絶対調子に乗るから気付かれるわけにはいかない。
  でも、いつもは似非紳士を貫きとおすコイツの態度のギャップには相変わらず付いていけないところがある。ただ、こんな風に話すのは俺だけらしい。警部はもちろん、他の誰と話すときもこいつは一線を引いているのに、なぜか俺と話すときはまるで子供のように話すのだ。あぁ、だから『KID』なのか。

「そういえばさ」
「あ?」
「明日俺の誕生日なんだ」
「……お前ってバカ?なんでそう簡単に自分の正体明かすようなこというんだよ!仮にも怪盗だろ!?」
「俺は最新鋭の怪盗だからいいの」
「マジで馬鹿だったか…」

 そもそもこいつは最新鋭とはいわないだろ、怪盗キッドが出てきたのは結構前だっと思うが。

「んでさ、誕生日プレゼント強請ってもいい?」
「いやだ」

 間髪入れずに即答した。

「えー!いいいじゃん。ケチ」
「どこの世界に怪盗の誕生日を祝う探偵がいるんだ」
「ここに。いいじゃんか別に宝石盗んでこいって言ってるわけじゃないし」
「ったりめぇだ!第一、お前にやるもんなんて思いつかねぇし」
「お。じゃあくれる気はあるんだ?」
「……何言ってんだ…俺は」

 うっかり言ってしまった自分に後悔した。なんだか怪盗の目がキラキラしてるように見えるのは気の所為だろうか…?

「俺の欲しいもの、聞いてくれる?」
「それをあげるとは言ってないからな」

 というより、俺が怪盗の誕生日を祝うことは決定なのか。

「俺と付き合ってほしいいんだけど」
「…………どこに?」

 怪盗の目があまりに真剣だからちょっと身構えてしまったが、それぐらいなら…っていや、付き合うって言っても場所によるよな。

「……はぁー…」

 首を傾げる俺を見て怪盗は大きくため息なんて吐きやがった。

「な、なんだよ?」
「あーもう…。そういえば、この手のことに疎いって言ってたな。だからってちょっと酷くねぇ?」

 ブツブツと呟いて天を仰ぐ怪盗から少しずつ離れて行った。なんだかこいつの纏う雰囲気が澱んできた気がしたのだ。

「どこ行くのさ、名探偵」
「いや…別に…」
「今逃げようとしただろ」
「気の所為だ」
「…明日…」
「明日?」
「明日の朝10時、お前の家に行くからな。覚悟しとけっ!」
「へ?」

 ビシッと指をつきつけて何事か宣言して煙幕を焚きつけた。思わず目を瞑って次に目を開けた時は誰もいなかった。

「……ってかあの格好で来るのか?」

 それだけは勘弁してほしい…。










 *****
 









 けたたましい目覚まし時計の音に眉を顰めながらゆっくりと体を起こした。急に起き上がると立ちくらみでまたベットに逆戻りする羽目になるのだ。

「っと…今何時だ…?」

 安眠を邪魔した時計を見ると10時12分前。ん?10時?10時といえば…あれ?なんだっけ…。
 やはり寝起きは頭の回転が遅い。今日の10時に…えっと…。
 ……あぁ!そういえば…

 そこまで考えてから玄関からチャイムの音がした。忘れていたなんて知ったらどういう顔をするのだろう。

「はいはい。今出るって」

 二回目のチャイムを聞きつつ玄関に向かった。きっとドアを開けると奴が立っているのだろう。にしても一体怪盗がどんな姿でくるのやら…。

「よ、名探偵。ちゃんと起きてたか?」

 そこにいたのは自分にそっくりな男だった。
 にっこり笑った顔はどう見ても自分の顔に似ていて、背丈は怪盗と同じぐらい。って当たり前か。瞳の色は濃紺だ。
 じっと怪盗らしき人物を観察してからドアを閉めようとした。しかし、しっかり足でガードされていてそれは叶わなかった。

「なーんで閉めようとするかな?」
「俺に兄弟はいない」
「知ってるって」
「なら何だその顔は」
「仕方ねぇだろ?これが俺の素なんだから」

 何故か自信満々に言う怪盗の顔を問答無用で抓ってみた。手加減はナシだ。人口肌の感触ではない。それはちゃんとした人の肌で…。

「いひゃい。いひゃいって!」
「あ。本物だ」
「だからそうだって言ってんだろ!ったく赤くなったらどうしてくれんだ」

 頬を摩りながら涙目で睨みつけてくる視線を受け流してとりあえずドアを開けてやった。

「名探偵」
「何だ」
「起きたの今だろ」
「よくわかったな」
「んな格好してれば誰でも気づくに決まってんだろ。さっさと着替えてこいよ」
「言われなくてもそのつもりだよ。ちょっと待ってろ、コーヒー飲みたかったら自分で淹れろよ」
「はいはい」

 キッチンを指さして言うと疲れたような返事が返ってきた。自室に戻ろうとしてなんとなく振り返ってみるとしっかりと玄関にカギをかける怪盗の姿が目に入った。その顔に何故か違和感を思えるのは何故だろう?











 ついでにシャワーも浴びてしまおうと思って服を脱ぎ捨てると玄関の方からまたもやチャイムの音がした。どうせ勧誘だろ、と思ってそのままシカトしたが、怪盗の気配が動いた気がした。わざわざ応対しに行ったのだろうか?
 とりあえず、そっちの方は奴に任せるとして、さっさとシャワーを浴びてスッキリしたい。梅雨真っ盛りの夜は蒸し暑くて汗が出て気持ち悪いのだ。












 髪を乾かさずにリビングに戻ったら思いっきり嫌そうな顔をされた。立ち上がってどこかに姿を消した怪盗を見送るとすぐに戻ってきた。手には乾いたタオルとドライヤー。

「ちゃんと乾かせって」

 そういって俺を自分の前に座らせて髪を乾かし始めた。意外と世話好きな性格なのかもしれない。抵抗するのも面倒でそのまま身を任せていると後ろから苦笑する気配を感じた。

「そういえば、誰だった?」
「何が?」
「さっき誰かきただろ?」
「あぁ、ただの勧誘だよ」
「そっか」

 違和感を感じさせない怪盗の返事に納得して頷いた。

「で、もう行ける?」
「あぁ、待たせて悪かったな」
「珍しい…」
「うるせ」

 仕返しに後ろから髪を乾かす怪盗に思いっきり靠れてやった。一瞬動かなくなったのを不審に思って振り返ってみると僅かに顔が赤い気がする。気のせいか?

「そういえば、どこに行くんだよ?」
「んー…そうだな。もうお昼だし、とりあえず何か食べに行こうか。要望はある?」
「ない。ってかお前の誕生日なんだからお前が選べよ」
「そうだなー……うどんが食べたい」
「はぁ?そんなんでいいのか?」
「なんかそんな気分」
「そうなのか?んじゃ駅行くか。いい店知ってる」
「お。名探偵がいういい店って事は期待してよさそうだな」
「おう。楽しみにしとけ」

 大分乾いた髪を軽く梳かしてもらって立ち上がった。戸締りは大丈夫だし、火が出るようなものもないな。一通り確認してから怪盗と一緒に家を出た。

「あ」
「ん?何?」
「お前の名前。なんて呼べばいいんだ?」
「あぁ、快斗でいいよ。黒羽快斗」
「……まさかそれも本名とか言わないよな?」
「言う。これが俺の本名」
「……やっぱ馬鹿だよな」
「俺も新一って呼ぼうっと。さ、行こうぜ新一?」
「誰がいいって言った?」
「いいじゃん。流石に名探偵じゃ変だろ?」
「まぁそうだけど…………ってあれ?」
「どうした?」
「いや、今なんか人の足が見えた気が…」
「そう?気の所為じゃない?」

 快斗は全く気にしてはいないようだ。やはり見間違いだったのだろうか。

「…ま、いっか」

















 *****















「あ、ここ寄っていい?」

 食事も済ませてのんびりとウィンドウショッピングを楽しんでいる時、ふと目に入ったCDショップを指さして快斗が言った。音楽が苦手な俺は滅多に入らないそこは休日ということもあるだろうが、割と人で賑わっていた。

「別にいいけど…」
「ありがと。今度、小さいけどショーに出してもらえるんだ。それでその時かける曲を選んでおこうと思ってね」
「そうなのか…」

 ショーというのはつまり黒羽快斗として出るマジックのショーのことだろう。ちょっと見てみたい気はするが、でもやっぱり俺が行くのは拙い気がする。

「新一もよかったら来てよ」
「へ?い、いいのか?」
「もちろん!是非来てほしいな」
「…予定がなかったら」

 嬉しいのに、それを素直に出すのも癪で俯いて素気ない返事を返した。それでも快斗は嬉しそうな顔をしていたけど。

「ね、この曲聴いてみて?」
「でも、俺こういうのわかんねぇぞ?」
「いいから、新一に聴いてほしいんだ」

 視聴用のヘッドホンを俺の頭から被せて再生ボタンを押した。
 暫くしてゆったりとしたクラッシックが流れ始めた。
 流れるようなピアノ、それに合わせたオーケストラも幻想的で思わず目を瞑って聴き入ってしまった。

「どう?」
「ん…この曲…好きかも」
「そ。よかった」

 にっこりと笑って快斗もヘッドホンに耳を近付けた。聴きたいのか?と目で尋ねると苦笑して首を振って、小さな声で「最後まで新一が聴きなよ」と言った。ヘッドホン越しとはいえ、耳元で話されると少しくすぐったくて肩を竦めた。

「やっぱこの曲にしようかな」
「もう決めてたのか?」

 新一が聴き終わるとCDを手にとって裏の演奏者名を見ていた。

「うーん…大体決めてたんだけど、でもやっぱ新一も気に入ったなら…」
「いいのか?俺の意見なんて参考にして…」
「新一耳いいでしょ?その新一がいいって言ったなら間違いないでしょ?」
「そうかぁ?」

 快斗は何故か嬉しそうに、うん。と頷いてCDをカウンターまで持って行った。
 すぐに会計を済ませてニコニコと笑いながら快斗が戻ってきた。

「ありがとう、新一」
「お礼を言われるようなことはしてねぇぞ?」
「それでも、俺が嬉しかったからいいの」

 妙に機嫌がいいらしい。背後から抱きついてきた。

「暑苦しい」
「いいじゃん。気にしない気にしない♪」

 言っても離れそうにない快斗を見て大きくため息を吐いた。これが本当にあの怪盗なのだと言っても誰も信じそうにないだろう。まぁ、これが素なのかもしれないが。こうしてみんなこいつに騙されるのか…。

「なんならお礼にマジック見せてやろうか?」
「!いいのか?」
「もちろん♪ここじゃなんだから公園行こ?」

















「誰もいねぇな…」
「珍しいかもね。こんな時間なのに…」

 ふと目に入った花壇に目をやると青いアジサイが花を咲かせていた。

「アジサイの花言葉って知ってる?」
「移り気だろ?」
「まぁそうなんだけど、辛抱強い愛情ってのもあるよ」

「へぇ」

快斗は苦笑しつつアジサイにそっと触れた。

「でもま。浮気って意味もあるからね。色が変わるからかな?」

土が酸性とアルカリ性かでアジサイの色が変わるのはよく聞く話だ。酸性なら青。アルカリ性なら赤というやつだ。

「綺麗なのにねぇ」
「花言葉は人間が後付けしたものだろ」
「まぁね」

しばらく二人でアジサイを見ていたが、ふと快斗が顔をあげた。


「ねぇ気づいてる?」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってんだ」

「天下の名探偵。気づかないわけないか…だってさ、西の探偵クン?」
「服部だったのか」
「あれ?そこまでは気づいてなったか」
「姿見てねぇし」

 ガサゴソと物音がする方を見てみると黒い人間。いや、服部平次が出てきた。

「お前…何もんなんや!」
「出てきて第一声がそれか」
「工藤!こないな奴に近寄ったらあかん!はよ離れい!」
「ってかお前、いつからいた?」
「朝からや!工藤の家行ったらなんや知らん男が出てきていつの間にか気い失っとったんや!」
「あぁ、あの時…あれ服部だったのか」

やはり足が見えたのは気のせいではなかったらしい。

「アレ?気付かなかったな」
「嘘つけ。知ってただろ」
「あ、バレた?ってか服部君が大阪から出てきたって聞いたからひょっとしたら新一のところにくるかなーって思ってさ、先手打とうと思ってさ」

 だから少し早目に来たらしい。あぁ、あの時鍵を気にしていたのはそのためか。
 クスクス笑って服部を見下ろす快斗の背後は何故か妙に薄暗い気がした。目が怖いのだ。

「怒ってるのか?」
「そりゃ新一とのデートを邪魔されちゃあね」
「デートって…お前なぁ」
「でさ、さっさと消えてくれる?服部君」
「お…お前に言われたかない!」
「んじゃ実力行使でもいい?」

殺気を纏いながら少し服部に近づく。それとほぼ同じように服部は後ずさっていた。

「なんや。すぐに暴力振るうやつなんか。工藤!近寄ったらあかん!」
「うるさいよ」
「ちょっと待て快斗」

 クイッと快斗の袖を掴んで止めた。

「何?新一」
「殺すなよ?」
「わかってるって」
「んじゃ二人とも怪我すんなよ。俺は飲み物買ってくる」
「あ、俺炭酸がいい」
「了解」

 そのあと服部がどうなったかは知らない。にしても、なんで快斗はあそこまで怒っていたのだろうか?まぁ、確かに折角快斗と一緒にいて楽しかったのに、後ろから感じる殺気が煩わしかったのは俺もだけどさ。あー…服部も生きてっかな?

 つらつらと考えているうちに飲み物を買って再び公園に戻ってくると服部の姿はどこにもなかった。

「あれ?服部は?」
「さあ。帰ったんじゃない?」
「そうか…ほら飲み物」
「さんきゅ」
「あーなんかマジックどころじゃなくなったなー」

 見たかったのに。

「また今度見せてやるよ。新一の為にさ」
「楽しみにしてる」

 和やかな雰囲気に包まれる。先ほどまであんなに殺気だっていた快斗は穏やかに笑っている。なんだかほっとした。快斗は笑っている方いい気がする。

「あと行くとこってあるのか?」
「いや、特にはないけど…」
「なら今度は俺に付き合ってくれるか?」
「へ?あ、ああいいけど…」
「じゃそれ飲んだら行こうぜ」
「どこに?」
「行ってからのお楽しみ」

 にやりと笑って見せると快斗は首を傾げていた。













「なぁ…新一…ここって……」
「俺の親父のお気に入りの店。ちょうど夕飯時だし、お前苦手なものって何かあるか?」
「あ、魚が苦手…」
「へぇ意外だな。苦手なものってなさそうなのに…」
「うっ…だ、誰にでも苦手なものの一つや二つあるって」
「まぁ、俺もレーズン苦手だし…」
「でも…俺スーツじゃないよ?」
「いいって。そこまで堅苦しい店じゃないし…でも味は俺と親父が認めたんだからな」
「それは強力かも…」

 先に店に入ると見知った店員が待ち構えていた。

「あ、工藤さん。お待ちしておりました」
「こんにちは、染谷さん。須賀さんいらっしゃいますか?」
「あぁ、店長なら今厨房だよ。工藤さんが来るって言って張り切ってるよ」

 染谷はニコニコと笑いながら一番奥の席まで案内してくれた。昔から家族で来たときも、一人で来たときもこの席に案内してれたのだ。

「ごゆっくり」
「染谷さん、いつもありがとうございます」
「いえいえ。工藤さんに御贔屓にしてもらえてこちらこそお礼をいいたいくらいですよ」

 多分あとで店長もくると思いますが…そう言って彼は仕事に戻って行った。

「よく来るんだ?」
「まぁな。小さい頃からかな?」
「へぇ。だから店長とも知り合いなのか…」
「昔からここの人たちにはよくしてもらっている」
「店の雰囲気もいいね」
「料理も旨いそ?」
「だろうね。楽しみにしてよっと」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」

 にっこりと微笑みを浮かべて店長、須賀が入ってきた。

「須賀さん。今日は無理いってすいませんでした」
「いえ、工藤さんがくるってみんな張り切ってますよ」

 染谷とにたようなことをいうのか面白くて思わず苦笑してしまった。快斗をみると同じように苦笑している。

「今日はゆっくりしていってください」
「はい。ありがとうございます」







 しばらくして料理が運ばれた。飲み物は流石に酒を飲むわけにもいかないからノンアルコールだが。

「誕生日おめでとう。快斗」
「ありがとう」

 料理に舌鼓をうちつつ、快斗が楽しそうにしていてほっとした。やはりここを選んで正解だったな。















 *****












 暗闇に浮かんだ月が二人を見下ろしていた。

「今日はありがとう」
「こっちこそ、楽しかったぜ」
「ねぇ、最後に一つだけ強請ってもいい?」
「?何だ?」

 何故か怪盗独特の笑みを浮かべる快斗に首を傾けると、急にあたりが暗くなった気がした。いや、暗くなったんじゃない、光が遮られたのだ。快斗によって。
 驚いているうちに唇に暖かいものが触れた。それが快斗の唇だと気付いた時には既に離れていて目の前には真摯な目をした快斗がいた。

「ねぇ、抵抗してくれないと…もっと欲しくなる…」
「抵抗…しなかったらどうなるんだ?」

 思わず口からでた言葉に快斗は目を瞠った。そして幸せそうに笑った。

「好きだよ。新一…」

 何か言おうと開いた口に快斗が貪るように口付けた。

「んっ…」

 舌を絡みとられて翻弄された。クラクラとする意識を無理やり保って崩れそうになる体を快斗が支えていた。

 あぁ、そうか。昨日こいつが言っていたのはこういうことだったのか…。
 なら俺も返事を返さないとな。快斗から解放されたらいってやろう。










「俺も好きだよ、快斗」






























END