定期的に行われるテストも終わり、冬休みを待つだけの高校生にはのんびりとした空気が流れていた。
しかし、時は12月。彼らにとって大きなイベントがある時期でもあるのだ。
「あー…彼女欲しいー」
「今年も独り身のクリスマスかよ」
そんなぼやきがあちらこちらから聞こえてくる時期だったりするのだ。
「なー誰か彼女紹介してくれよー」
「そんな相手がいたらこんなとこいねぇよ」
「だよなぁ…」
そんな級友の姿を横目で見つつ、快斗は黙々と目の前にある菓子を食べ続けていた。
「黒羽はいいよなぁ」
「だよな」
「はぁ?」
無視を決め込んでいた矢先に話を振られたので少し驚く。
「俺だって彼女いねぇし」
「いいんだよお前は」
「そうそう」
「……」
周りの男どもが一斉に首を縦に振った。
なんだか自分の知らない間に級友たちは一致団結している。なんなんだ。
「だって黒羽のルックスなら困らねぇだろー?」
「いざとなったらすぐにでも俺達裏切って彼女出来るもんな」
恨めしそうな視線が突き刺さる。
顔を引きつらせながらのけ反って距離を取っておく。
「や、俺彼女いらねぇーし」
そう、『彼女』はいらない。むしろ欲しいのは『恋人』だ。更に言うなら『工藤新一』が欲しいのだ。
怪盗キッドとしてなら何度も会ったことがあるが、黒羽快斗としては一度も会ったことはない。それでも、彼のあの強い目の輝きに、彼の意志に、どんな姿になってもけして変わらない彼の心に惹かれたのだ。
とはいっても、そんなことをこんなところで話すわけにもいかないので黙っているしかない。
そんな快斗の心情を知る由もない級友たちは騒ぎ出す。
「この人でなしっ」
「いらねぇならその顔俺に譲れっ」
……随分な言われようだ。
「誰がやるか!大体、好きな人に振り向いてもらえねぇなだどんな顔してよーが一緒だろ!?」
思わず叫んだ言葉に自分でも驚く。本音が出てしまったかもしれない。
更に驚いた顔をしたのは目の前の級友たちだ。
「……黒羽が珍しくまともなこと言った…」
「メズラシー」
……本当に、俺は一体普段どんな目で見られているんだ。
「つか、お前にそんな子がいたなんて初めて聞いたぞ?」
「だよな。中森さんか?彼女なら心配しなくても…」
「ちげぇよ」
だから『彼女』はいらない、って言っただろ。
とこっそりツッコミながら口には出さない。気づかれたら終わりだ。
「違うのか…」
「なら誰だよ?」
「白状しろ黒羽!」
詰め寄る級友にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ヤダね勿体ない」
ライバルが増えるなんて冗談じゃない。ただでさえ彼のファンは全国各地にいるのだから。いや、ひょっとしたら世界レベルかも。
「くわー!勿体ないとか!」
「黒羽で振りむかねぇってどんな人だよ!」
「ん?もうすっげー美人v」
にやにやと自慢げに言ってのければその分だけ騒ぎ出す。
ま、本当の事だし。
「どこの学校だよ」
「まさか大人とか!?」
勝手に色々妄想を始めた奴らを尻目に快斗は外に目を向けた。
そういえば、彼は明日の現場には来てくれるのだろうか。
最近彼も忙しいのか、中々来てはくれないのだ。
…会いたい。
何度も彼の所へ「黒羽快斗」として行こうと思ったか。それでも、まだ「黒羽快斗」にも「怪盗キッド」も危険だから…彼に近づけない。
「遠くから見るだけなら…いいかな」
小さく呟いた言葉は誰の耳にも入ることはなかった。
***
「でもま、実際独り身のクリスマスってのもあれだよな」
爛々と月が輝く夜。
手にした宝石を弄びながらキッドはぼんやりと呟く。
「何の話だ」
ぶすっとした声に振りかえると新一が不機嫌そうに立っていた。
「お久しぶり、名探偵。最近来てくれなかったじゃん」
「俺も暇じゃねぇんだよ」
だからさっさとそれ返せ。と手を出す新一の手をじっと見つめて、そのまま引っ張った。
「うわっ!何しやがる」
「んな寒そうな格好してる名探偵が悪い」
そう言ってマフラーを取り出すと新一の首にぐるぐると巻きつけた。
「……」
「これでちょっとはマシでしょ」
首に巻かれたマフラーをじっと見て、新一は少し顔を俯けた。
「……さんきゅ」
「どーいたしまして」
にっこり笑って顔を覗き込キッドから新一は目を背けた。その顔は少し赤い気がする。
「そ、それより、さっき何言ってたんだよ」
「え?あぁ、別に特別なことじゃないけど…あ、そういえば名探偵はクリスマスを誰とお過ごしで?」
「は?」
「あー…アレだろ。彼女…毛利探偵のところの…」
自分で言ってなんだか寂しくなった。
名探偵には彼女がいたのだ。
「や、蘭は彼氏と過ごすぜ?」
…へ?
「え、彼氏って名探偵じゃなくて?」
「……俺じゃアイツを悲しませるだけだからなー…」
どこか遠い目をした新一の横顔を見て悟ったキッドは小さく優しい笑みを浮かべた。
「そっか」
「それに、クリスマスっつってもどーせ事件に追われてどうだしなー」
人ごとのように笑う新一に思わず苦笑が零れる。相変わらずだ。
「って…あぁ、その手があったか」
この事件に追われてばかりの名探偵を引き寄せるにはやはり事件で誘き寄せるのが一番だ。
いや、でも予告状なんか出したら青子が怒るかもしれない。
今年のクリスマスは親父さんと過ごすとか言っていたような気がする…。
「何の話だよ」
「ん?ちょっとねー…」
未だぶつぶつと何か呟きながら考え事をするキッドを見て、新一は呆れたような目を向けた。
「あそ。俺は寒いからもう帰るぞ」
くるりと体を扉に向けるとスタスタと歩きだした。
一拍遅れてそれに気付いたキッドが慌てて新一の袖をつかんだ。
「ちょっと待った」
「んだよ」
「送ってく」
「いらねぇ」
スパンと断られてちょっと傷つく。それでもめげない。
「いいから、送ってくって」
「いらねぇっつってんだろ。つか何で野郎が野郎に送ってもらうんだよ」
「や、危ないし。名探偵」
夜道で襲われたらどうするんだよ!
と必死に目で訴えてみたが胡乱気な目で返されただけだった。
「どーいう意味だ」
「いろんな意味で」
「……帰る」
キッドの手をあっさり振りほどいて早足で立ち去っていく。
「待てよ!名探偵っ!」
今度は手首を掴んで無理やり引き寄せるとそのまま白いマントで体を覆った。
「なっ…何すんだよっ!」
「こーでもしないと逃げるだろ」
「逃げるってなんだよ!帰るだけだろ」
第一逃げんのはお前の仕事だろう!と叫ぶ新一を無視してキッドは楽しそうに笑った。
「ほら、しゃべってっと舌噛むぜ?」
掴まってろよ
と耳元で囁くと同時に二人の体は宙に投げ出された。
「は?わっ…うわぁー!」
新一の叫び声が夜空に響き渡った。
そんな二人を見ていたのは空に浮かぶ白い月だけだった。
***
新一がキッドに無理やり家まで送ってもらってから数日が経った。
「あら、工藤君。今日は早いのね?」
頭がまだ寝ぼけている状態でポストを覗き込んでいると隣から声が掛った。
「灰原…?おはよ」
「おはよう」
欠伸をしながらのそのそと朝刊を取り出し、ざっと一面に目を通す。
「まぁ、規則正しい生活をしてくれるのはいいことだわ」
何か気になる記事でもあったのか、新一の目が探偵の目になったのを見やりつつ、哀はため息をついた。
「…あら?」
ふと、新一のポストの下に目をやると一枚の手紙が落ちていた。
「工藤君。その手紙、あなたのじゃないの?」
「へ?」
きょとんと目を丸くさせた新一は哀の視線を辿ってポストの下に目をやる。
「あ、ほんとだ。落としたのか?」
「でしょうね」
でもなんでこの時間に手紙?
と疑問に思いつつ手紙を透かしてみる。
「……刃物は入ってないみたいだな」
「気をつけなさいよ」
「わかってるって」
それでも中身は見てみないとわからない。
慎重に封を切ると中から一枚のカードが出てきた。
「…?」
それ以外は入っていない。
差出人も書いていない。
「…………工藤君?」
何故かカードを凝視した新一が心配になって声をかけたのだが、返事がない。
「工藤君!」
「あ、灰原…わりぃ」
「それより、誰からなの?」
「さぁ?」
「さぁって…そんな怪しげなもの…」
「でも、多分アイツだと思う」
多分と言いながらもその言い方は確信があるようだった。
「アイツ…?」
「闇夜を駆ける気障な泥棒」
「怪盗キッド…?」
何か新一の家から盗み出そうとでもいうのだろうか?
「暗号で書かれてるから何の用だか知らねーけど…」
といいつつ再びカードに目をやる新一は実に楽しそうな目をしていた。
「……はぁー…まぁいいわ。彼なら」
彼なら新一を傷つけることはないだろうし。
何より、こんな楽しそうな新一は久しぶりに見たのだ。
「その暗号解くのなら、せめて家の中に入ってからやることね」
頷きながらもカードから目を離さない新一を背にしつつ、哀は小さく笑った。
「よかったわね、怪盗さん」
工藤君に喜んでもらえて。
誰にともなく呟かれた言葉に反応するように、頭上にいた鳩が飛び立っていった。
***
”24日の午後10時。杯戸シティホテルの屋上にて。怪盗キッド”
暗号を解読すればただそれだけの文章だった。
それでも好奇心からキッドの待つと思われる場所へ足が向いていた。
重たい扉を開けると輝く月が出迎えた。そしてその下には白い影…怪盗キッドが優雅に立っていた。
「お待ちしておりましたよ。名探偵」
「……なんの用だよ」
思わず見惚れてしまいそうになるのを慌てて目をそらした。
「いえ、この聖なる夜に貴方の時間をお貸しいただきたいと…思ったので」
そういうとポンッと軽い音とともにシャンパンらしきものとグラスが現れた。
「……未成年」
「今さらだろ?それに俺は年齢不詳」
さっきまでの気障な言い回しはどこへやら、いつもの軽いノリに変わったキッドは座り込み、優雅にグラスを傾けた。
「はぁー…そういうことにしておいてやるよ」
「ほら、飲もうぜ」
トントンと自分の隣を叩くキッドに呆れたような目を向けるが、このまま帰っても無意味な気がしてため息をつきながらもキッドの隣に座った。
「メリークリスマス。名探偵♪」
「…おう」
金色の泡が立ち上る様子を眺めながら新一は小さく笑った。
「綺麗…だな」
「そうだな」
名探偵も綺麗だけど。
と口には出さなかったが、微笑みながらキッドは頷いた。
穏やかな空気が流れる中で、キッドは飽きることなく新一を見つめていた。
それに気付いているのかいないのか、新一は月を眺めながらシャンパンをゆっくりと飲んでいた。
「なぁ、名探偵」
「ん?」
「クリスマスって奇跡が起こるものなのかな?」
静かなキッドの声に視線を戻すと、キッドが切なさと寂しさの混ざったような顔をしていた。
「…何言ってんだよ。お前が奇跡を起こすんだろ?」
ニヤリと笑って言ってやればキッドは少し驚いたような顔をした。
「お前は黙って奇跡を待ってるような奴じゃねぇだろ?それに、俺に…俺達に奇跡を見せてくれるんだろ?」
月下の奇術師さん?
好戦的な目で笑う新一はいっそ艶やかでキッドは思わず目を瞠った。
が、それも一瞬ですぐにいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな。では、名探偵に私からのささやかな奇跡をお見せいたしましょう」
すっと手を広げ、宙から一本の赤いバラを取り出すと新一に差し出して、パチンと指を鳴らせば金の紙吹雪のようなものが降ってきた。それも一瞬のことであっという間に消えると、白い雪のようなものに変わった。
息のつく間もなく次々と現れる幻想的な奇術にただ見惚れることしかできない新一はそれでも楽しそうな顔をしていた。
最後には新一は両手一杯の赤いバラを抱えていた。
「お前…多過ぎだろ…」
「では…」
ポンとピンクの煙に包まれたと思ったら薄い青色の包装で包んだ花束になっていた。
「差し上げますよ」
「…さんきゅ」
キツすぎることのないバラの香りを感じながらも新一は微笑んだ。
そんな新一の様子を見てキッドも嬉しそうに笑った。
「さて、そろそろ帰るか?」
「え?」
キッドに言われて時計を覗き込むともう日付が変わっていた。
「もうこんな時間か…」
「楽しんでもらえた?」
「ん…さんきゅ。キッド」
こんなクリスマスイヴもいいかもしれない。
そんなことを思いながらもぼんやりとキッドを見上げた。
「送ってくぜ?」
「あぁ…でも、流石に寒くなってきたな…」
「じゃ、こうしてればいいだろ?」
そういってギュッと新一の体を抱きしめた。
「っ…な、なにすんだよ」
「いいじゃん。こっちの方が暖かいだろ?」
「でも…」
「ほら、黙ってないと舌噛むぜ?」
突然浮遊感に襲われたと思った直後、街のネオンが視界一面に広がった。
「すご…」
「この時期はイルミネーションもあるから、特別綺麗だよな」
色とりどりに光が溢れ、見ているだけで楽しい気分になる。
「イルミネーションを見上げるのもいいけど、見下ろすのも最高だろ?」
「そう…だな」
目をキラキラと輝かせて楽しそうに下を見下ろす新一を微笑ましげに見ながらキッドは新一の家を目指した。
***
カタンを音を立てて新一の部屋のベランダへ降り立った。
「玄関の方がよかった?」
「や。ここでいい」
躊躇いもなくガラッと窓を開けた。
「…開けておいてくれたんだ?」
「……まぁな」
おそらく、この前無理やり送ってってからキッドの現場に行く時は開けておくようにしたのだろう。
「そんなことより、何か飲んでくか?」
「え?いいの?」
「たまにはいいだろ」
そう言うが早いか、さっさと靴を脱いで中に入って行った。
その姿を見ながら少し戸惑う。
俺が怪盗であることを忘れてないだろうか?
「何してんだよ。さっさと入れ」
「……お邪魔します」
どこか殺伐とした部屋に足を踏み入れた。
「ちょっと待ってろよ」
「はい」
パタパタと階段を降りていく足音を聞きながらぼんやりと部屋の中を見渡した。
「奇跡は自分で起こす…か」
奇跡は起こるのだろうか。
「んな都合のいいことあんのかな…」
彼に『黒羽快斗』として出会う。
些細なことかもしれない。それでも、俺にとってはとても大切なことで貴いことなのだ。
「好き…なのに」
それでも、今日というこの日を一緒に過ごせるだけで奇跡になのだ。
忙しいだろうに、他の誰からからも誘われていたかもしれない。それでも俺を選んでくれた。
それ以上を望んではいけないのだろうか…?
「キッド」
思考の波に沈んでいた所為か、新一が立っていたことに気づかなかった。
「コーヒーでよかったか?」
「あぁ、ありがとう」
見るからに濃いブラックだ。
「砂糖いるか?」
「うん。ありがとう」
流石にミルクはないらしい。まぁ、新一はいつもブラックを飲んでるようだから砂糖を持ってきてくれただけで嬉しい。
暫くコーヒーを啜る音だけが響いた。
「名探偵」
「ん…?」
「……」
ちょっと眠たそうに見える。
「眠い?」
「や…大丈夫…」
家に帰ってきて疲れがきたのかもしれない。
「もう寝たら?」
「いい…俺寝たら…お前帰るだろ?」
「え?」
もう限界が近いのか、目がうとうととしている。
「名探偵…?」
「ごめ…何言ってんだろ…」
瞼がゆっくりと落ちていく。
「おやすみ、名探偵」
さらっと髪を梳き、寝息を立て始めた新一の寝顔を眺めた。
「っと、このままじゃ風邪ひくよなー」
新一の体を起こさないように持ち上げてすぐそばにあるベットの上に寝かせた。
どこかあどけない寝顔を見て少し笑いが零れる。
「じゃあな?新一」
最後に頬にそっと唇を落とした。
名残惜しいが、そろそろ帰らなければならない。
「き…っど」
踵を返して出ていこうとしたら袖に抵抗を感じた。
見ると新一がぎゅっとキッドの袖を掴んで離さない。
新一の顔を見るが、起きてはいないようだ。
「……どうしよ…」
このまま引きはがして帰るのも忍びない。
さて、どうしたものか…
「仕方ない…よな?」
誰に言い聞かせるともなく、苦笑を洩らしてそのまま座り込んだ。
「一緒にいて…いいのかな?」
そっと新一の髪に触れると、新一が微笑んだように見えた。
***
「……っ…」
どこかで誰かが呼んでいる。
「…と…っ!」
「め…たんてい?」
うっすらと目を開けると綺麗な青い瞳が自分を映し出していた。
「な…んで?」
「まだ寝ぼけてやがんな。起きろって」
「んー…」
あぁ、そうか。昨日あのまま寝て…
「…なんで俺ベットで寝てんの?」
ガバッと起き上がると目の前には新一の顔があった。
「やっと起きたか」
何故か嬉しそうな顔をしている。
「え、なんで?俺…」
「あ?あぁ、寒そうだったから上に引っ張ってきた」
起きた瞬間に新一の顔が目の前にあると心臓に悪い…と今の状況を自覚するとするすると後ろに体を仰け反らせた。
「何も…してないよな」
思わず相手の服が乱れてないか確認してしまう。
…自分でいうのもアレだが、すぐ隣に新一が寝ていて寝ぼけていても何をしでかすか分からない。
「はぁ?心配しなくても襲ったりしねーって」
いや、俺が襲うって。
ふと、何かを思い出したかのように新一が目をそらした。
「ん?」
「や、顔…見てねぇからな」
「あ…あぁ」
そういうことか。
そういえば今の自分は『怪盗キッド』だったのだ。
「新一」
「え?」
驚いたように顔をあげた新一をみて快斗はふわっと笑った。
「キッド…?」
「キッドじゃないよ」
そういうとモノクルを外した。
「快斗。そう呼んで?新一」
「かい…と?」
「うん」
嬉しそうに笑う快斗に新一は戸惑ったように視線をさまよわせた。
「でも…俺は…」
「名探偵じゃない、工藤新一だろ?」
それに、俺は新一と同い年の黒羽快斗。
だから何の問題もない。
「だからさ、ちゃんと自己紹介させて?それで、もしよかったら友達になってくれないかな?」
「友達?」
「そ、まずは友達からね」
そのあとは俺の努力次第。
それでも必ず手に入れてみせる。
「だから、よろしくね?新一」
簡単なことだったのだ。
怪盗キッドだから黒羽快斗では会えない。怪盗キッドだから夜にしか会えない。
それなら、朝である今は?
『怪盗キッド』である必要はないのだ。
そっと額に唇を落とすとサッと新一の顔が赤くなった。
「奇跡は自分で起こすものなんだろ?新一」
end