「『光』がなくなれば、何が残るのでしょうね?」
そういってゆっくりと長く細い指を首に回した。
夢を紡ぎだす指はそっと俺の首に絡まれている。
俺の目には薄暗い天井と月の光に照らされた彼の顔しか見えない。
泣きそうな目をしている彼を俺が拒める筈がないというのに…。
止めて欲しいというような切実な光を燈していた。
「ひ…かり……?」
絞り出すようにして出した声は無機質な部屋に響いて消えた。
「貴方は私にとって唯一の光なんですよ」
そういって寂しそうに笑ってみせた。
「私を唯一見つけて捕らえる光…このまま、『光』を汚して消してしまえば私は捕らえられる事も、真実を見つけ出される事も、恐れる必要はなくなる…」
――…『光』を失えば『闇』からは開放されても、何も残らない……
「何もなくなるのでしょうね」
――…私すらも……
躊躇うようにゆっくりと力を入れる。
だんだん呼吸ができなくなってきて意識が薄れてきた。
まだ、気を失うわけにはいかないのに…。
寂しそうに微笑む彼を手放してはいけないのに…。
まだ動く腕を伸ばしてそっと彼の頬を撫でた。
「消え…ない…から…泣かないで…?」
それだけを漸く言うとそこで意識が途絶えた。
細く折れそうな首から指を解くと綺麗な瞳を閉ざし流れている雫をそっと拭った。
気は失っているがちゃんと生きている…。
その事に安堵して、自分のしようとしたことに恐れをなした。
まだ温かい手…。
失いたくはない。
でも、いつかは失ってしまうという恐怖に勝つ事ができるのだろうか…。
今、彼を失ってしまったら自分は生きては行けないだろう。
何もなくなって何も残らない。
全てが消えてしまうのだから……。
ならば、初めから消してしまえば。
『光』更に強くなる前に消してしまえば。
『闇』と『光』で全てを支配される前に消せば。
そして、自分も消えてしまえば。
苦しみからは解き放たれる…。
もう、これ以上自分も彼も苦しまなくてすむ。
…だけど……
「好き、なんだよ……新一…」
足元に絡まる鎖は解けることなく更に強く縛り付ける。
身動きが取れなくなるまで完全に支配されるまで…。
縛られ続ける。
俺は……それを、何よりも望んでいるのかもしれない……。