「――…君がため 惜しからざりし 命さえ  長くもがなと 思ひけるかな…――」

小さいけれど、よく通る声で紡がれる歌に軽く眉を寄せた。

「暗いな」
「でも、本心ですよ?」

クス…と小さな笑いを零して月を見上げるキッドの横に立った。
相変わらずその表情からは何も読み取れない。

「名探偵は“永遠の命”というものがあると…信じますか?」
「宗教の勧誘か?」
「まさか」

気障ったらしく肩を竦めるキッドの姿を見遣るとその視線を月に向けた。

ちょうど頭の真上にある小さな月。
手を伸ばしても届くわけがないのに、何故か届く気がするのだ。
まるで、すぐそばにいるのにいつも遠くにいるように感じるこの男のように…。

「手を伸ばしても、けして届かない」

どこか切なげに紡がれた言葉はまるで今、自分が考えていたことを見透かされたようだった。

「それでも、無理だと分かっていても…私は諦めることができないのですよ」
「……”永遠の命”を…?」
「…………さぁ、どうでしょうね」

キッドは月から目を離すと艶やかな笑みを浮かべてそっと新一の頬に触れた。

「キッド……」
「本当は”永遠”なんていらない。私が求めるのは一つだけ・・・・」

新一がいるから私は今も前を向いていられる。
新一がいない世界なら私はこんな世界に未練なんてない。
だからこそ、”永遠の命”を与える石は手に入れなければいけないものであり、何よりも疎ましいものだ。
もし、新一といられるのなら…ずっと離れることなく一緒にいたい。
それでも、新一は私の手に堕ちることなんてないから……。
だから…永遠なんて必要ない…。

触れていた手をすっと放して新一から離れた。

「では、名探偵。またお会いしましょう?」

視界一面に白が覆いつくしたと思うと、すでにキッドの姿はなかった。
怪盗の姿がないことを見とめると新一は小さく息を吐いた。

「…………”永遠”なんて、いいものでもないぜ?キッド」

月が冷たい光を放って寂しそうに見下ろしていた。