子供らしく、普段は楽しげに笑っているのに、ふとした瞬間にどこか遠くを見ている気がした。
 一体どこを見ているのか、何を考えているのか知りたくて、いつの間にか手を伸ばしていて、そして彼の存在が自分の中での一番になっていた。
 しかし、ある日突然彼はいなくなった。

『ねぇ、新一はどこに行ったの?』

 何度も何度も親に尋ねた。いくら尋ねても彼が帰ってくることはなくて、何度も泣いた。
 あの頃は何も知らなかった。本当に何も。
 でも、まさかこんな形で再会するなんて思ってもいなかった。
 幼い頃、一番仲のよくて、大好きだった彼と…。

「これは名探偵。前に見たときより随分大きくなったようだな」
「テメェこそ、ちょっと見ねぇうちに腕が落ちたんじゃねぇの?」

 こんな形で敵対するなんて、あの頃は思ってもいなかった…。

「まさか、滅多に来てくださらない名探偵殿が来て下さると知っていれば、もっと丁重に歓迎してさしあげたのに」
「…お前がんなしゃべり方すると寒い」
「失礼な」

 一定の距離を置いて交わされる応酬。その距離は縮まることなく、怪盗と探偵の関係を表わしていた。
 その関係は夜だけでなく昼も変わらない。むしろ遠くなるのだ。
 怪盗としては彼に近付くわけにはいかないから。それでも、心のどこかでは彼が自分のことを覚えているのでは…と思っていた。しかし、実際は全く覚えていないのだろう


 悲しくなかったと言えば嘘になる。だってずっと待っていた彼が自分のことを全く覚えていないのだから。
 それでも、彼が自分の中で一番であることには変わらないのだ。多分、これからもずっと。

「なぁ、名探偵」

 でも、やっぱり自分だけが覚えているなんて悔しいから。

「んだよ」
「…昔話してやろうか?」
「んなもんいらん」
「まぁ聞けって、可哀想な男の子の話をさ」

 アンタの好きな謎をあげるよ。
 嘘と真実を織り交ぜた話。
 その中の真実に気づくことができるかな?名探偵。