ぼんやりと窓の外を眺めているとチャイムの音が聞こえた。周りがカチャカチャとペンやら消しゴムやらをしまう音が聞こえる。
最後に宿題やらの話をしていたが、誰も聞いてはいない。
気の抜けた挨拶を済ませて大きく腕を伸ばした。座っているだけで疲れるのだ。この椅子は。
ふと前に視線をやると目の前でサラサラと黒い髪がなびいていた。じっと見てるとうなじに顔を近づけたくなる。
「なぁ、工藤」
「んだよ?」
声をかけると返事はするが振り向かない。ちょっとムッとするがいつものことだ。
「次の授業なんだっけ?」
「自分で見ろよな。えーっと化学か…」
「えーマジかよ。あの部屋暑いんだよなぁ…」
「文句言うな。クーラー古いんだから仕方ねぇだろ」
「早く直せよなー」
私立の学校らしく、すべての教室にクーラーが完備されているが、壊れているのや古いクーラーというものはやはりあって、化学室もその一つなのだ。
ちなみにこの教室のクーラーも壊れかけだ。
いつの間にか目の前に工藤が立っていた。
「つべこべ言わずにさっさと行くぞ。また文句言われる」
「はいはいっと」
必要な道具だけ持って俺も立ち上がる。
何人かはもう既に教室を移動しているようだ。といっても、理系と文系に分かれているこのクラスで理系の人間は10人ほどしかいないのだが。もちろん文系でも化学はやるが、内容はやはり違うらしい。まぁ俺には関係ないけど。
「工藤は化学の授業受けなくても余裕じゃねぇの?」
「お前が言うな。どうせお前授業聞いてねぇだろ」
「さぁね。工藤もさっきの英語の授業の時寝てただろ?」
「…なんでお前後ろの席なのに分かるんだよ」
「そりゃ愛の力故でしょ」
「はいはい」
「本気なのになぁ…」
苦笑を零しつつ隣を歩く工藤の横顔を眺める。こうしてずっと一緒にいるのになかなか想いは伝わらないようだ。まぁ、男同士だからそういう感情を持てという方が無理があるのかもしれないが、全くそういう対象で見てくれないのも寂しい。
こんなにも好きなのに。
「工藤」
「んー?」
「次の授業サボらねぇ?」
「遠慮しとく」
「なんでさ」
「いい加減出席日数やべぇんだよ」
「そんなの警察からのお誘い断ればいいじゃんか」
「嫌だ」
「えー」
「放課後なら付きやってやるから待ってろ」
「絶対?」
「絶対」
「約束したからな」
「しつけぇなお前も」
「そりゃ新ちゃんのことですから」
「新ちゃん言うな!」
ムッとした顔で睨みつける工藤も可愛い。そんなこと言ったらただでは済まないだろうから言わないけど。
ふと窓の外に広がる空を見上げた。
工藤と同じ色の空を見上げてほほ笑む。たとえ、想いが伝わらなくても、こうして一緒にいられるだけで幸せなのだ。もちろん、諦めるなんてことはしないけど。
「…ぜってぇ、手にいれてやるからな」
「何か言ったか?」
「いや。それよりさっさと行こうぜ?」
今は放課後のデートのことだけを考えておこう。