※精神的に快斗≠キッドです。苦手な方はご注意を…。






















頭上にあったはずの月がまっすぐに自分を見下ろしていた。まるでその姿を隠すように白い影が月を覆う。

背中の下にある固いコンクリートが冷たい。

「やめろ…キッド」
「こんな所までのこのこ来る名探偵が悪いのでしょう?」

クスクスと冷たく笑う怪盗を感じて身を捩る。それでも、頭の上で両腕を拘束されていて大した抵抗にはならなかった。

「怖いのですか?」
「っ…!」

するりとキッドの指が首に触れた。滑らかなシルクの感触が触れた瞬間、無意識に体がビクッと震えたのがわかった。

「ちがっ…」
「…ふぅん?まぁ、どちらでもいいんですけどね」

そう言って触れていた首に唇を寄せた。

「っう…」

ぞくりと何かが通り抜けた。そんな反応をみてキッドは楽しげにくすくすと笑っている。

「大人しくしていれば、気持よくさせてあげますよ?」

月をバックに、キッドは背筋が凍りそうになるぐらい綺麗に微笑んだ。

「や…助けて…かい…と…っ…!」

ふとシャツの下に潜り込んでいた手が動きを止めた。

「……名探偵は彼がよろしいのですか?」
「え…」
「…『ねぇ、新一…俺に抱かれたい?』」

耳元でそっと囁く『快斗』の声。

「やめっ…」
「何故ですか?貴方は彼がいいのでしょう?」
「違う!そんなんじゃ…」

キッドの冷たい視線から逃れたくて顔を背けると、顎を掴まれ無理やり戻された。冷たい色をしたキッドの瞳に自分の姿が映っている。

「何も知らない黒羽快斗を…選ぶのですか?私よりも、彼を…」

一瞬だけキッドの瞳が揺れた気がした。気の所為な筈なのに、その色は彼と同じ色に見えた。
でも、今目の前にいるのは彼じゃない。自分を強姦しようとしている犯罪者だ。なのに――

「私の方が彼よりずっと貴方の事を思っているのに…!」
「きっ…んんっ…!」

噛みつくような深い口づけ。呼吸することも苦しくて、朦朧としてきた頭で必至に開けないようにした。
今、キッドの目を見てしまったら受け入れてしまいそうだから…。

「んぅ…はっ…ぁ…」
「貴方を手に入れるためならなんでもするのに…誰よりも貴方の事を思っているのに…っ…」
「ぁ…キッド…っ…」
「堕ちてください私の元へ…永久に……」

何も考えられない頭でキッドの声だけが響いた。
それはまるで悪魔の甘美な囁きのように……。











* * *














目を開けると目の前にあったはずの月も、白い影もなく。見慣れた天井が自分を迎えていた。
まるで昨夜のことが夢だったかのようだ。しかし、体に残る倦怠感とシャツの下に残る紅い刻印が夢ではないことを否定していた。

「キッド……」

目を閉じれば昨夜のアイツの顔が蘇ってくる。……泣きそうだった…気がするアイツの顔が…。
ゆるゆると首を振って頭の中からアイツの姿を消そうとしてみた。
アイツはただの強姦魔で、アイツは…――

「…快斗……」

似ていると思った。全然違う筈なのに、性格も、言葉遣いも…なのに快斗が泣いているように見えた。

「…れは…」

好きなのか?快斗が。
キッドに組み敷かれて無意識に呼んだ名前が自分の耳に届いたとき、正直自分でも驚いた。

――でも、違う。

快斗は大切な友人で…それ以上ではない。

でも、もし快斗にキッドと自分との関係が知られたら…快斗は一体どう思うだろう?
なんとなく、それは知りたくないような気がした。


体は綺麗に洗われたようだが、もう一度体も心もすっきりと洗い流したくなって重たい体を起こした。

「あれ?」

ふとベットの横に一輪の薔薇が置いてあるのに気づいた。

「黄色い…薔薇…」

満開に咲くそれはどこか禍々しく、少しだけ身震いした。

花言葉は確か…



――嫉妬……












「新一!」

重たい体を引きずって無理やり大学まで出てきた。アイツの所為で予定が狂うのも癪だからだ。アイツに全ていいようにされてるようで不愉快だ。
今日の講義も終わり、サークル活動もまともにしていないから後は家に帰って寝るだけ…と思っているところへ後ろから聞き覚えのある声が呼び止めた。

「…………かい…と?」

会いたくて、会いたくなかった。
昨夜の事と、いつもと変わらない笑顔を見せる快斗に胸がちくりと痛んだ。

「どうしたんだよ?珍しく真面目に出てきてると思ったら講義そっちのけでボーっとしてるし…なんかあったのか?」
「や、そういうわけじゃねぇんだけど…」

離れたい。一緒にいるとアイツの顔がフラッシュバックして、居たたまれない気分になった。
体に残る紅い刻印は人目につかないように首元タートルネックのものを着てきたが、あの感触が消えることはない。

「…顔色も悪いし、風邪でもひいたんじゃねぇ?新一の家誰もいねぇんだったな。俺が夕飯作ってやるから今日は早く寝ろ」
「あぁ…って、家来るのか?」
「じゃなきゃ飯は作れねぇな。なんだよ、なんか拙いことでもあんの?」

拙い…といえばかなり拙い。こうして話しているだけでもアイツの存在が、アイツの感触が蘇ってくるのだ。それを快斗に気付かれたくはない。

「ほら、顔も赤いし、熱あるんじゃねぇの?さっさと行くぞ」
「っ…快斗!ちょっと待っ…」
「そういえばさ、昨日キッドの現場に行ったのか?」

快斗の肩を掴む前に快斗がくるりと振り返った。さっきまで浮かべていた笑みは消え、どこか冷たい目をしている。

「あ…あぁ、行ったけど?」

スッと快斗の視線から目をそらして何があったのかは考えないようにした。
無意識に首元へ手をやっているのを快斗は少し目を細めて見ていたが、新一が気づくことはなかった。

「……ふぅん…」
「そ…れが、どうかしたのか?」
「いや?特に理由はないよ」

そう言っていつもと同じ笑顔に戻った快斗に何故かアイツと同じものを感じた。

なんとなく、今…快斗と一緒にいてはいけない。そう思ったのに、俺は快斗の手を振りほどくことができなかった……。











* * *










冷たい指先がそっと頬に触れた。同時に暖かなものが唇に触れる。

「ん……」

クスッと誰かが笑うような気配がした。不意に頬に触れていた指先が離れ、シャツの下に潜り込む。

「んっ…」

くすぐったさに顔を背けようとすると、無理やり顔を引き戻され唇に触れた暖かいものは次第に下に降りてくる。
外気に触れ、冷たくなってきた体が熱を持ち始めた。暖かいものが胸の飾りに触れた瞬間、体がびくりと震えた。
その様子に満足したのか、暖かいものは執拗に弄ぶ。

「あ…キッド…」

思わず口から出た言葉にいいように体を弄んでいた指が動きを止めた。

「ねぇ……新一はアイツがいいの?」

「……・え……?」

パチンと音を立てるように意識が覚醒した。今までのは…夢?
恐る恐る目を開けると真っ暗な部屋と窓から差し込む月光。そして、自分に覆いかぶさる人の影。

「かい…と…」

喘ぐように名を呼べば影が笑ったような気がした。

何故快斗がここに…。あぁ、そういえば夕飯を作るとか言っていた。それで俺は…。

「ねぇ、新一」

暗闇に徐々に目が慣れていくと、快斗の紫紺の瞳に自分の姿が映っているのが見えた。
そして、耳元で囁く重低音。

「やっぱり、新一はアイツの方がいい?」

怖い。
快斗の目から、快斗自身から逃れたくて身を捩るが、どこにそんな力があったのか簡単に縫いとめられてしまう。
微笑を湛えながらそっと頬に触れた。暖かい快斗の手は冷たくて、アイツと同じだった。

「俺じゃだめなのか…?ずっと新一のこと好きだったのに…なぁ、新一…」

懇願するような声で快斗が囁く。

「かい…と……」

快斗の唇がそっと触れ、僅かに開いた隙間から舌を滑り込ませ、そのまま深く口付けた。

「んんっ…!」

貪るように口の中を犯され、頭がクラクラしてきた。ただ、流し込まれる唾液を飲むことしかできない。
目を開けることなんてできるはずがなくて、快斗のシャツをギュッと掴んでいるだけで精一杯だ。
何か小さい塊が喉を伝って体の中に入ったような気がした。それでも、もう何も考えることができなかった。

「はあっ……いと…」

解放されると、俺は漸く開くことができた。

「新一は俺のものだ」

紫紺の瞳がどこか虚ろで歪んでいるようにみえた。

「かい…と…」

アイツと、あの怪盗と同じ目をしている。泣きそうなのに、それにすら気づいていない…。

腕を伸ばして快斗に触れたい。あんな目をしている快斗を…アイツを突き放すことなんてできないから。

俺の意図に気づいたのか、そうじゃないのか、快斗は俺を見て笑った。

「新一…」

俺の体をぎゅっと抱きしめる快斗の髪がくすぐったい。

「大好きだよ、新一」

だから……

「おやすみ」

次第に遠くなる意識の中で、最後に見たものはどこか狂気の色で染まった快斗の目だった。











* * *










「はぁっ…あぁ…」

虚ろな目で快斗を見る新一にそっと口付けた。

「あっ…ふぁ…」

喘ぎ声を隠すこともできず、ただ快楽に身をゆだねているだけ。そこに新一の感情はない。

綺麗な新一の体にはすでにいくつか赤い印が付けてある。それを消すように白い体に舌を這わせた。

――アイツには渡さない。

アイツだけじゃない。他の誰にも…

クスッと自嘲した。
こんなことをしておいて、もう新一に近づくことなんてできないかもしれないのに…でも、もしそうならば俺は多分新一を閉じ込めてでも俺のものにするだろう。…今のように薬で従わせて。

あぁ、でもそれでもいいかもしれない。誰とも会わず、誰の目にも触れさせず、ただ俺だけをその綺麗な青い瞳の中に映し出させて。
心が俺のものにならないのなら体だけでも…。

「…悔しいか、キッド」

笑みを浮かべながら自分自身に言い聞かせた。

そこで見てるがいい。所詮影でしかない存在。

「はっ…あぁ…」

快楽に身を委ね、新一の目には何も映っていない。それでもいい。
憎悪でも、恐怖でも、新一の中に自分がいるのならば…それでいい。


淡い月の光が差す部屋の中で、白い影がどこかで笑っているように思えた。








* * *











鳥の声にゆるゆると覚醒した。

「…れ…」

喉が掠れてる…。昨日、何があった?
体を起こそうと力を入れるが、思うように動いてくれない。

「目が覚めましたか?」

扉を開ける音とともに聞きなれた声が聞こえた。

「キッド…」

目を向けると上手く影の中にいて、顔まではわからない。そういえば、あの夜もこいつの顔だけはわかんなかったんだっけ。

「なんで…」
「貴方も、薄々分かってるのでしょう?」
「……」

何が。とは聞けなかった。

「快斗とお前は…」
「同一人物ですよ。体はね」
「体は?」
「それは貴方が一番よくわかっていらっしゃるのでは?」

そう言ってキッドは新一のいるベットまで近寄ってきた。

「快斗…」
「…今は『私』ですよ。快斗も流石に疲れたのでしょう」

顔は同じなのに、纏う雰囲気が違う。

「体は同じでも心が違う。だから互いに嫉妬し合うんですよ」

貴方を求めて…ね。

と新一の手の甲に口づけを落とした。

「…なんで、俺なんだよ」
「貴方が貴方だからですよ。私も快斗も貴方だから惹かれる。貴方は光そのものだから…」

だからこそ、穢してしまいたくなる。

「俺は…どちらかだけを好きになるなんてできない」
「……」
「快斗も、お前も嫌い…じゃないんだと思う」

じゃなきゃ俺はさっさと逃げだしているだろう。彼らから。

「答えを出さなければいけないのか…?」

キッドを見上げるとどこか嬉しそうに笑っていた。

「いえ、急ぐ必要はありませんよ。そもそも、私も快斗もお互い牽制しあっていたのに、私が始めに貴方に手を出してしまったから快斗も怒ったのでしょう」

…なんとなく、俺が一番被害にあっているような気がする。
気のせいではないだろうけど。

「まぁ、それでも快斗に負けるわけにはいかないですからね」

快斗が眠っているうちに…。

と啄むように新一の唇に触れた。

「もし、私と快斗の体が違ったら…もっと大変なことになっていたかもしれませんね」

そんなことを言いながら笑うキッドの頬をギュッと抓って目を閉じた。

俺も…流石に疲れたかもしれない。



ったく、コイツといい快斗といい…これから少なくともこいつらが飽きるまで俺は付き合わされるのだろうか。

「あ、私たちが貴方に飽きるとかそんなことは絶対にありえませんからね」
「…………ノヤロウ…」

とにかく、俺は厄介な奴らに気に入られてしまったらしい。

もう、逃れることはできない。











* * *











眠ってしまった新一の髪を弄びながらキッドは小さくため息を吐いた。

「まだ拗ねてるんですか?快斗」
「…別に」
「起きたら謝るんでしょう?」
「…お前に譲るつもりはないからな」
「私も同意見ですよ」

多分、ここにもう一人自分がいたら火花を散らして睨み合っているのだろう。
誰よりも強敵なライバルだから。

「代われ、キッド」
「嫌です」
「キッド」
「嫌です」

折角名探偵の寝顔を堪能できるのに代わってしまっては勿体ない。多分、快斗も同じことを考えている。

この愛おしい人を守りたい。
私も、快斗も受け入れてくれたこの人を…。

「…新一も、大変だよな」

確かに。とこっそりと同意してしまう。

「すいません。名探偵」

でも、もう私も快斗も捕らわれてしまったのだから。

貴方という光に。

だから…


「愛してます。名探偵」「愛してる。新一」


絶対に逃がさない。















***


精神的に快斗≠キッド。
新一さんモテモテです。これからも互いに牽制しあいながら新一さんを奪いあっていくのでしょう。ガンバレ、新一(笑


メモに連載?してあったのを拍手に変更。なんとなく、普通に表に晒すのは恥ずかしい…//
今回はえろに挑戦!とつもりでしたが…やっぱ無理です。誰か上手なえろの書き方を教えてください…。