夜になり、ソロ達は近くの町で宿をとることにした。
運よく、部屋は開いていて、仲間たちは疲れた体を癒すべく、早々に眠りについた。
その中で1人、ソロは仲間たちを起こさないように宿を出て行った。

昼間は賑わっていただろう町も静寂に包まれ、深い闇夜が広がっていた。
旅の中で慣れたのか、夜目がきくソロは躊躇うことなく夜の町へ出た。
満点の星空がソロを見下ろす。特に宛があって歩いていたわけではないが、気づいたら町から外れた川の傍まで来ていたようだ。

「眠れないのか」
「まぁね」

ソロは背後からの突然の声に驚くことなく答えた。
くるりと振り返ると、燃えるような瞳に銀の長い髪…魔族の王が立っていた。

「ピサロこそ、休まなくていいのか?」

魔族の王でありながら勇者であるソロ達の仲間になった。それも共通の目的のため。慣れ合うつもりはないのか、一定の距離を保って近づいてはこない。

「人間と同じにするな」

冷たい声音は怒っているように感じられるが、これが彼の素なのだろう。

ふわっと風がソロとピサロの間を通っていく。

「お前は…私が憎くはないのか」

ピサロの独り言にも似た呟きにソロは一瞬呆けたが、言葉を理解すると少し俯いた。

「……さぁ、どうだろ」

ピサロを見て、自嘲するように笑った。

「俺さ、この旅が終わったらどうしよう…っていつも考えていたんだ。みんなは帰るところがある。でも、俺は?」

淡々と静かに話すソロの目には何が映っているのか。目の前にいるピサロの姿は見えていないかのようにみえた。

「村に戻っても、もう誰もいない。みんな、いないんだ…」

父さんが釣りをしていた川やシンシアと一緒に遊んだ花畑は毒に侵され、家は燃やされ、人々もいなくなった。
ソロは一人になったのだ。

「それでも、初めは、お前を殺して村に帰るつもりだった」

”勇者”だからじゃない。”ソロ”である自分が、村を破壊した、みんなを殺した魔族の王を殺したかったのだ。

「でも…」

イムルでみた夢は忘れることができなかった。ロザリーを人間に殺されたピサロの悲しみ、痛みは自分にも覚えのあることだったから、ピサロを完全に憎むことができなくなった。

「私は、今さらあのことを悪いとは思っていない」

あの時はああするしかなかった。敵になるであろう勇者を殺しておく必要があった。それが例えまだ幼い子供でも。

「だろうな」
「それでも、お前は私を生かすのか?」

ソロは黙って空を見上げた。
そしてその刹那、剣を抜きピサロの喉元に剣先を突きつけた。

ピサロもソロもぴくりとも動かなくなった。暫く二人は黙って互いの真意を読み解くかのように見つめあった。

一瞬とも、永遠ともいえる時が経った。

先に動いたのはソロだった。
剣を下ろし、鞘の中に仕舞うと大きなため息を吐いた。

「なんでよけないんだ」
「よけたら生かしたのか?」
「いや?お前がよけていたら殺してた。殺すつもりだったさ」

事もなげに言ってのけるとその場に座りこみ、目を細めて星空を見上げた。

「…生かす、殺すの問題じゃない。もう、殺せないんだ」

そう言ってどこか悲しそうに顔を歪ませた。
そんなソロを見て、ピサロはソロの隣に座り翠の髪に触れた。

「…お前は、死にたいのか?」

唐突なピサロの問いにソロは少し目を瞠った。が、すぐに艶やかな笑みを浮かべた。

「さぁ?」
「もし、お前が死にたくなったら私が殺してやろう」
「魔王だから?」
「どうだろうな」
「ふぅん…じゃあ、ピサロが死ぬ時は俺が殺してあげるよ」
「勇者としてか?」
「さぁね」

互いに顔を見合わせ、クスリと笑った。
ピサロはソロの顎を軽くつかむと自分の唇を重ね合わせた。
ソロもピサロも目を閉じることなく、相手の瞳の中に映った自分の姿を見つけると同時に目を閉じた。

重ね合わせただけの口づけは深いものに変わり、漸く解放されたと思ったら力が抜け、ソロはピサロに支えてもらうしかなくなっていた。

「っ…やりすぎだ、バカ」

キッと睨みつけるが、あまり効果がないのか勝ち誇ったような笑みを浮かべるピサロが見下ろすだけだった。

遠くから魔物の遠吠えのようなものが聞こえる。


「…帰るか」
「そうだな」

立ち上がろうとした…が、力が入らずソロは再びへたりこんでしまった。

「「…………」」

じっとソロを見下ろしたピサロは何を思ったのか、ソロを横抱きにして抱き上げた。

「ちょっ…何すんだよ!」
「歩けないのだろう?」
「う…ピサロの所為だろっ」
「だから責任とって運んでやろうというのだ」
「いいから!降ろせよっ」
「あまり騒ぐと他のものが起きてしまうが、いいのか?」

そっとソロの耳元で囁きかけると、真っ赤になったソロが渋々と言ったように押し黙った。

「お前、絶対遊んでるだろ」
「気のせいだ」

ぶつぶつと文句を言っていたソロも、流石に眠たくなってきたのか、うとうととし始めた。

「寝ろ。人間は休まないと体がもたないのだろう?」
「……ピサロも…だろ」
「人間と同じにするなと言ったはずだ」

それでも強情に起きておようとするソロにそっと催眠呪文をかけるとぐたっと動かなくなった。

「…あまり無茶をするな」

ソロの部屋につくと起こさないようにそっとソロの体をベットに降ろした。

ピサロは暫くソロの寝顔を見つめたあと、音もなくその場から姿を消した。


「……お前が私を殺しにくるその日まで…」



――私はお前のために生きよう。
















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メモで載せたそのままに。
ピサ勇第一弾でしたー。