本当はずっと一緒にいたい。
そんなことを言ったら君は困った顔をしながら笑うのだろうか。
涙に濡れた木曜日
風は冷たいが暖かい光が包み込むような晴れた木曜日。
必修科目の授業だけ出てから大学を出た。
本当ならさっさと溜まっているレポートを完成させて、新一にメールして、あわよくば新一と出かけて…とそんな日を過ごすはずだったのに。
どうして今俺はここにいるのだろう?
「快斗ー! 次これ持ってて!」
「…………」
「何よーその顔」
「一体いくつ買うつもりなんだ」
「えー? 普通でしょ? 」
「……」
「それに、快斗彼女いないんでしょ? 嫉妬するような子もいないって」
「そーいう問題じゃない」
そう、俺は今幼馴染に連れ出されているのだ。
一時期は恋愛対象として見ていたのにいつの間にか大切な家族のようになった幼馴染。昔は彼女も俺に対してそういう感情を持ってくれていた…と思う。でも、俺が切り離
したのだ。
もうそんな感情を持てなくなったのだ。
ひょっとしたら…彼と会ったからだろうか?
もし、俺がキッドじゃなくて、彼と会うことがなかったら……いや、それでも俺は彼を求めただろう。
鏡の中の自分を求めるように。あの出会いは必然だったのだ。
「快斗? 」
「なんでもない」
まぁ、正直彼女の気持ちを裏切ったことになるから申し訳ない気持ちもあるわけで、こうして買いものに付き合っているということなのだが。
「ほら、まだなんか買うんだろ? 」
本当は彼に逢いたいなんて思ってしまう俺は相当ヤバいのかもしれない。
***
「あ。アレもかわいいー! 」
「そうかぁ? 」
「もう、快斗には分かんないんだよ」
「…あっそ」
「ちょっと見てくるねー」
「はいはい」
ショーウィンドウにあるのは華々しい色遣いの小物たち。
それらを真剣な目で見る幼馴染の横顔が少し大人びてきたように見えた。
まるで妹のような存在だった彼女も快斗と離れることによって変わったのかもしれない。
それがいいことだったのかはわからないけど。
少し離れたベンチに座ってぼんやりと空を見上げる。
透きとおる蒼がどこまでも綺麗で手を伸ばせば届く気がした。
それでも俺の手は届かないのだ。どんなことをしても。
あの綺麗な瞳を持つ彼も…。
今彼はどうしているのだろう?
「ちょっと新一!? 」
急に聞こえた声に驚いた。
だってその名前は今自分が考えていた彼の名前だったのだから。
慌てて声の聞こえた方を振り返るとそこには自分の幼馴染とよく似た少女。
「どこ行くのよ! 」
少女の視線の先を追うと背を向けているが紛れもなく彼の姿だった。
「…しんいち…? 」
突然のことで唖然とその姿を見送るだけしかできなかった。
「蘭? 新一君どうしちゃったの? 」
「わからない。急に立ち止まったと思ったら怖い顔してたのよ」
「新一君が? 事件でもあったのかしら?」
「それなら言うわよ。それに…」
「何? 」
「なんだか新一…泣きそうな目していたのよ…」
新一が?
どうしてだろう…?
何かあったのだろか…。
頭では蘭の言葉が反芻して無意識のうちに走りだしていた。
今新一を見失ったら取り返しのつかないような気がして…。
***
「っ…どこに行ったんだよ……」
確かこの辺りにいるはずなのに姿すら捉えることができない。あたりを見渡しても人影すら見当たらない場所。
こんなところまで来ていたのか…。
「新一…」
それでも諦めるわけにはいかないから。
軽く頭を振って新一の行きそうなところを考えてみる。
ふと快斗の目に小さな公園が目に入った。
「公園…? 」
なんとなくそこに足を向けみたが、そこに新一の姿はなかった。
「いない、か……」
僅かな願いもむなしくそこには誰もいない。
小さくため息を零してクルリと公園を出ようと振り返った。
「「あ」」
思わず目を瞠った。
いや、それはお互い様だろう。
そこに快斗が追いかけていた相手、新一がいたのだから。
「かい…と」
「新一…」
追いかけているうちに追い越してしまったのだろうか。
それにしても気まずい。
あれだけ必死に探していたというのに実際目の前にすると何故自分はあんなにも必死で探していたのか忘れそうになってしまう。
えっと、確か新一の姿を見かけて、泣きそうな顔をしていたっていうから…。
そこまで考えてから改めて新一の顔をみるが泣きそうどころか全く普段と変わらない顔を見せている。
あの子の見間違いだったのだろうか?
1人首を傾げる快斗をみて新一も不思議そうに首を傾げていた。
その仕草はよく似通った2人だからだろうか、まるで双子のようだった。
「とりあえず…座ろうか? 」
「あ…あぁ」
どこかぎこちなく近くのベンチに腰掛けてみたが、気まずい空気は消えないまま。
思い切って聞いてみようか。と思う。
でも、まさか「泣きそうな顔してた? 」なんて聞けるわけがない。
どうすればいいのだろう?
何も考えずに追いかけたのはいいが、本当に何も考えていなかった自分にコッソリ舌打ちをした。
「何かあったのか?」
「え? 」
まさに今自分が言おうとした言葉が新一の口からでたことに驚いた。
「や。だって快斗なんか思いつめてるようだったから…」
「あー……」
表情に出ていたのか。
ポーカーフェイスを忘れずにをモットーにしている怪盗としてはとんだ失態だ。
「俺はなんでもないよ。でも、新一が…」
「俺?」
「うーん……なんて言ったらいいのかな…」
「快斗でも言葉に困ることあるんだな」
「へ? あー…うん。まぁ…」
「東都大を次席で入学した奴とは思えねぇな」
クスクスと笑う新一の姿にさっきまでの自分の行動が愚かに思えてきた。
でも、新一を追ってきたことはいいことだったかもしれない。
こんな彼の姿を見ることができたのだから。
「新一は首席だよね?」
「点数でいえばお前とそう変わらねぇよ。それに…手抜いただろ?」
「まさか。新一がすごいだけだってv」
「どうだか。で、いい言葉は思いついたか? 」
「うーん……まぁいいや」
「いいのか?」
「うん。なんか新一の姿みたら安心しちゃった」
「? そうなのか? 」
「うん」
にっこりと笑ってやると新一もどこか安心したような顔をした。
「俺に用があったわけじゃねぇんだな」
「まぁ用って程の用じゃないんだけど。ところでこれからご予定は?」
「特にないな」
「そ? じゃ俺とデートしようよv」
「はぁ?」
「いや、俺もちょうど暇だったし。折角新一と会えたのにこのまま、じゃあねってのもアレだし。あ、それとも俺と一緒にいるのは嫌?」
我ながらずるい聞き方だとは思う。優しい彼がこんな聞き方をすれば拒絶しないと分かっていて。
それでも俺はもっと新一といたいから。
「でも…快斗はさっき……」
「え? 」
「いや。なんでもない。で、どこに連れていってくれるんだ?」
デートなんだろ? とにやりと笑う新一の姿はまるで現場で会った時のあの顔でちょっとドキっとした。
「それでは新一を夢の世界まで…」
手を差し出して新一に負けないぐらい不敵に笑うと一瞬だけ新一の目が驚いたように瞠った。
でもそれも一瞬のことで快斗の手を取るとにやりと笑う。
「ほんと、気障な奴だよな」
「相手が新一だからね」
ウィンクして言うとフンッと鼻で笑われた。
「あ。今笑っただろ」
「気の所為だ」
「新ちゃん酷い! 」
「新ちゃん言うな! 」
2人で手をつないだまま笑って走りだす。
新一の笑顔をみながらやっぱりあの時に追いかけてよかったと思う。
いつでも新一には笑っていてほしいから。悲しい顔なんてしてほしくない。
もっと傍にいて、もっと新一の笑顔が見たい。
でも、辛いことがあったなら言ってほしい。
俺なんかに言えることじゃないかもしれない。でも、1人で抱え込んでほしくないんだ。
少しでも新一に笑ってほしいから。
だから無理はしないでね…?
next
―――――
****あとがき****
新一サイドも書こう。
新一さんの謎の行動はお分かりかもしれませんが、いつか明かそうかと。
にしても約一か月ぶりの更新となりましたね。
どうせ短いのしか書けないのならさっさと書けよ。と自分にツッコミいれながらこれからもがんばります。